『冤罪被害者』のブログ 

冤罪被害者の闘いを綴る

012証人尋問①

 宣誓

  良心に従ってほうとうのことを申し上げます。知っていることをかくしたり、ないことを申し上げたりなど決していたしません。

  以上のとおり誓います。

 

 

 2019年2月12日、Aの証人尋問がはじまった。

 証人が証言をする場合、裁判官の面前で宣誓をしてから証言をはじめる。

 嘘の「証言」をした場合、偽証罪に問われるのだ。

 

 今回の証人尋問の目的は、捜査段階のA供述と客観的証拠との齟齬を証拠として現出させることであった。

 

〔主尋問〕  

 9月事件を何も語れないA

 まず、検察官による主尋問がはじまった。

 当たり前のことかもしれないが、検察官は、供述調書どおりにAに証言をさせた。

 検察官が、事前にA供述と客観的証拠の齟齬に気付き、証言内容を修正してくる可能性もあったので、何となく拍子抜けであった。

 

 主尋問での一番の驚きは9月事件であった。

 検察官は、9月事件の際のAと私、警察官の立ち位置などの詳細をAに尋ねた。

 しかし、Aは供述調書どおりに答えることができない。

 真に被害を経験したものとは言えないほど杜撰な証言であった。

 

 例えば、9月21日の立ち位置は、要旨「Aと被疑者が西側ロングシート前で左右に並び被害に遭った」と捜査報告書に記載され、警察官らによって「再現」までなされている。

 

 しかし、Aは「犯人は右とか左とかではなくて前にいました」、「前にいたってことは覚えています」と2回にわたって明言した。

 

 西側ロングシート前で、私がAの前に立てないことは当たり前であり、客観的に不可能なことをAは証言したのである。

 もちろん、警察官ら行った「犯行再現」なるものと合致していない。

 警察官らがAを「犯行再現」なるものに参加させていない理由が理解できた場面であった。

 

 検察官は、「とりあえず近くにいたってことですか」とAを救済したが、あまりにも杜撰な証言であった。

 Aの「近くにいた」という証言だけで、有罪立証できるはずがない。というか、あってはならないことである。

 これがまかり通れば、満員電車で誰もが「犯人」になってしまう。

 

 又、その他の場面のA証言においても、警察官らの「犯行再現」なるものと合致することはなかった。

 A証言を聞いて、検察官は相当焦っている(諦めている)様子であった。

 

 A証言が何ら証拠となり得ないことは明らかであった。

 

〔反対尋問〕

 弁護側の反対尋問がはじまった。

 弁護側の戦術は、先に主任弁護人がA証言を固め、後でもう一人の弁護人が証言の矛盾を突いていくというものだった。

 

 被害申告の虚偽

 Aは、主任弁護人の尋問に対して、①「いつも通学でα電車に乗っていた」、②「6月までα電車の先頭車両で10回以上被害に遭った」、③「9月まで20回程度被害に遭った」、④「被害申告(6月30日以降)電車を早くした」ことなど、概ね供述調書どおりに証言をした。

 

 Aは、LINE履歴を把握されていることを気付いていなかった(上記②ないし④の自己矛盾にすらAは未だに気付いていないかった)。

 

 すかさず、もう一人の弁護人が尋問をはじめる。

 弁:あなたは、いつもα電車に乗っていなかったですよね?

 A:いつも乗っていました。

 弁:被害回数をオーバーに言ったりしていませんか?

 A:言っていません。

 弁:裁判官、LINE履歴を示して尋問をしてよいでしょうか?

 裁:はい、構いません。

  (ここから一気に攻めていく)

 弁:これはあなたのLINE履歴を抜粋したものです。

  :5月1日の履歴ですが、α電車の時間より早く乗っていますよね?

 A:はい。

 弁:次、5月2日ですが、これもα電車に乗っていませんよね?

 A:・・・多分、・・・はい。

   (中略)

   (同様のやり取りが6月下旬まで続いた)

 弁:もう一度確認します。

  :いつもα電車に乗っていたというのは本当ですか?

 A:・・・(うなずく)

 弁:被害に6月まで10回以上遭ったのも本当ですか?

 A:・・・(うなずく)

 弁:9月まで20回程度被害に遭っていたというもの本当ですか?

 A:・・・はい

  Aが、嘘を言っていることは明らかであった。

 弁護人によって、客観的事実を突き付けられても、Aは証言を訂正しなかった。

 証人としての「信用性」が皆無であることは間違いない。

 傍聴人の誰もがAの虚偽申告を確信していた。 

 

 さらに尋問したいことはたくさんある。

 弁:6月29日の件ですが、本当は犯人はあなたの前にいたのではないですか?

 A:前にいました。

  (Aは供述調書と違う回答をした)

 弁:あなたは、この日母親に「犯人が後ろにいる」という電話をしていませんか?

 A:・・・

   間違って言ったかもしれないです。

 弁:そうすると、前にいるのは前にいたのですか?

 A:前にいました。

 弁:そのあとはどうしたのですか?

  (Aは後を付けられたから駐車所に隠れたと供述していたので、それに沿って弁護人は尋問を行った)

 A:犯人を捜しにいきました。

 弁:捜してからどうしたんですか。

 A:見失ったので待っていました

 弁:待っていたら、どうなったのですか?

   待っていたら犯人が現れました。

  (この日、恐らく私は最寄り駅付近のスーパーに立ち寄った。Aはスーパーから出てきた直後の私を発見したのだろう

 弁:犯人はどうしたの?

 A:車に乗りました。

 弁:そこで車のナンバーを記録したわけですね?

 Aは、最寄り駅で帰宅途中「後を付けられた」と被害申告をしていた。

 母親にも「後を付けられている」と電話して助けを求めていた。

  しかし、Aは、弁護人に「私が前にいた」こと、「Aの方が待っていた」ことを認めた。

 Aが「待っていた」と証言した時刻は、母親に「マジて付いてきている。ちょっと待って。ちょっと待って。」と2回目の電話で4分間通話した時間帯である

 明らかに客観的事実と異なっている。

 

 ここまでくれば、Aの虚偽申告を暴いたのも同然であった。

 弁護側の勝利であった。

 これ以上、尋問のし様がない。

 もはや何が真実なのか分からないレベルであった。

 

 動画撮影の経緯

 その他、6月事件の動画の撮影経緯について尋ねた。

 弁:母親から動画を撮影する指示はありましたか?

 A:ないです

 弁:6月11日に撮影したものを見せたら、母親に「ちゃんとした証拠を撮らないとあかん」と言われたのではありませんか?

 A:言われていないです

 弁:母親に言われたから、13日にわざわざ近いところに乗って、動画を撮影したのではないですか?

 A:違います。

  Aは、供述調書で「これ(6月11日に撮影したもの)を見た母親から証拠を撮るように指示されたました」と述べていた

 供述と証言の自己矛盾の発現である。

 

 例えば、同じ人物が一事象につき、別の「ア」と「イ」という内容を述べることはあり得ない。供述・証言した「ア」と「イ」につき、両方が虚偽であるか、いずれかが虚偽である。

 こうしたことが法廷で発覚した場合は、証人尋問後に、Aの捜査段階の供述調書を裁判所に提出することができる(刑事訴訟法328条)。

 裁判官に、Aの自己矛盾を突き、Aの証人としての信用性がないことを示すためである。

 

 それにしても、なぜ、Aは証拠撮影の指示につき嘘を言う必要があるのか。

 

 動画を撮影した日、Aは私のあとから私の前に乗り込んだ。

 これはAが一番ドア側に立っている客観事実から明らかである。

 そうして、迷惑行為(痴漢)のような動画を撮影した。

 つまり、「故意に近くに乗り込み撮影を行った」ことを隠すためであることが強く推認される。

 

 Aが「ミスって近いとこ乗ってもーた」と友人にLINEで送信しながら、O駅、T駅と立ち位置を一切変えなかった不合理な点も説明がつく。

 

 弁護側の推認が極めて合理的であることが明らかとなった瞬間である。

 

 別人の写真

 Aは、9月事件につき別人の写真を捜査機関に提出していた。

 検察官から、捜査段階で問い詰められ、「間違って撮影した」ことは認めていた。

 弁:この写真は間違って撮影したのですか?

 A:はい。

 弁:間違って撮影することなんてあるんですか?

 A:はい。

 弁:なんで間違ってしまったの?

 A:画像が反転していたから間違えました。

  Aはスマートフォンで画像を撮影したため、画像が保存される際に反転してしまったようだ。

 このことは関係証拠から認められ争いはない。

 しかし、Aが警察で「犯人です」などと書き込んだ画像(プリントアウトしたもの)は、画像の方向が修正されているものであった。

 捜査報告書には「Aが証拠の画像を差し出してきたので、本職はそれを撮影し証拠を保全した」と記載されているが、その画像の方向は修正されたものであった。

 つまり、Aは自ら画像の方向を正しく修正しているので、画像の方向を正しく認識できていたことになる

 よって、「反転していたから間違った」という弁解は、極めて不合理であった(そもそも、撮影対象を間違うこと自体、あり得ないのであるが・・・)。

 

 そして、何よりこの画像を撮影した際、警察の「犯行再現」なるものでは、Aは東側ロングシートの北端で南側を向いて立っていたことになるが、Aが記入している自分の立ち位置は西側を向いて立っていることになっていた。

 さらに、この日Aは「東側を向いていました」と証言した。

 

 人間は、真に体験したことは映像記憶として記憶に残る。

 犯罪の被害を受けている場面であれば猶更のことであり、これ程までに同一人物の供述や証言が食い違うことは考え難い。

 Aが真に体験したことを語っていない証左であると言える。

 

 Aは、供述・証言をする度に立ち位置が変化するのである。

 当然、警察官らが行った「犯行再現」なるものとも合致しない。

 

 すべての事件につき、Aの証言は手の施しようがないほど杜撰なものであった。

 

 結局のところ、Aの証人尋問では、上記のような不合理な点ばかりが発現した。

 予定どおりに進行し、公判後は弁護団とともに安堵した。

 

 この尋問を経て、事件を理解できない裁判官は恐らくいない。

 弁護団とそのような会話もしていた。

 

 次は警察官2名の証人尋問である。

 

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冤罪弁護士

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  • 作者:今村 核
  • 出版社/メーカー: 旬報社
  • 発売日: 2008/01
  • メディア: 単行本