『冤罪被害者』のブログ 

冤罪被害者の闘いを綴る

袴田事件

最高裁、再審開始決定取消を高裁へ差戻し

 最高裁第三小法廷によって、袴田事件の再審開始決定取消の可否判断が、東京高裁に差し戻された。

 仮に、最高裁が高裁の再審開始決定取消を支持した場合、無実の袴田さんは死刑囚として再収監されてしまう。ひとりの人間の生命に関わる人権侵害が愚行されることを考慮すれば、今回の最高裁の差戻し決定は、ほんとうによかったと思う。

 そして、無罪判決の獲得に向けて、大きな前進だと思う。

 

 しかし、第一報を聞いて喜んでいたが、報道を見ると一概に喜べないという思いが湧いてきた。

 最高裁第三小法廷の裁判官全員が、東京高裁の再審開始決定取消の判断に疑問を呈していることは事実である。今回、最高裁は高裁の判示に対し「あたかも弁護側鑑定人が意図的に不正をしたかのような説示をしている」と断罪している。

 こうした点では、最高裁の判断は、一定の評価をすることができるといえる。

 ただ、再審開始を即刻開始するか否かについて、5人の判事で大きく意見が割れてしまった。残念としかいいようがない。

 

 弁護団は、再審請求につき、「犯人」の物と思われる着衣についてDNA鑑定を行った。静岡地裁は、このDNA鑑定の結果を最重要視し、袴田さんの犯人性を否定した。画期的な再審開始決定が2014年に下されたのである。

 しかし、東京高裁は、事件当時から鑑定試料の経年劣化の可能性があるし、その信用性を否定してしまう。結局、静岡地裁の再審決定は、不合理に取消されてしまった。

 

 今回、最高裁の3人の判事は、東京高裁の判断につき結論部分において是認できるとした。つまり、DNA鑑定は新証拠にはならないと判断したのである。一方で、2人の判事は、静岡地裁の開始決定に対し、東京高裁が論理則・経験則に照らし、決定取消に足りる合理的な説明を果たしていないと補足意見で述べている。つまり、この2人の判事は、DNA鑑定の信用性は担保され得ると説いているのだ。

 

 たしかに、もう一つの新証拠とされる「味噌漬けにされたシャツの染色の程度」については、十分な検証を行う必要があると思う。しかし、それは再審開始の上で、鑑定すればいいことではないか。

 

 補足意見で2人の判示が述べている。

 単にメイラード反応の影響等について審理するためだけに原裁判所に差し戻して更に時間をかけることになる多数意見には反対せざるを得ないのである。

 世間一般的な常識に基づく意見だろう。おおいに共感できる。

 しかし、多数意見はそうではなかったのは事実である。

 日本の司法に正義はあるのか。

 

 ほんとうに辟易する差戻しの判断であると思う。